バイク王 バイクライフ研究所 コラム

『バイク乗り女性のファッション変遷』 国井 律子

国井コラム写真

私がバイクに乗り始めた15年ほど前、女性ライダーはいまよりずっと少なかった。当時見かけた女性のバイク乗りといえば、市場などでゴム長を履き、日常のアシとしてバイクに跨る業者の女性とか。しかし本格派ライダーも少数だがいることはいた。彼女たちはたいていやる気満々なツナギにフルフェイス姿で、「男なんかに負けるもんか!」的な、ちょっと近寄りがたい空気を漂わせていた。

そんななか私が目指していたのは“ふつう”でいることだった。バイクから降りてもふつうに街が歩けること。肩肘張らず、ふつうにその乗り物で旅ができればいいなと思っていた。ところが、この“ふつう”ほど難しいことはなかった。というのも当時、バイクを取り巻く環境は完全に男社会。そのような閉鎖的な流れは、バイクウエアを見れば一目瞭然だった。メンズものしかないのだ! 仕方ないのでデニムやTeeシャツや、ふだん着ているカジュアル服で代用することに。でもバイクは、私の想像以上にハードな乗り物だった。たとえば向かい風。スピードを上げるにつれ、こんなにも空気の壁が厚くなるなんて実際乗ってみるまで知らなかった。霧がかった峠越えに凍え、山を一気に下れば太陽照りつける汗ばむ陽気。そういう気温の変化にも驚いた。なにより痛かったのは、高速走行中の雨だ。薄着で乗った日には、頬や腕にまるで針で刺すような痛みが容赦ない。たった1度のツーリングでTeeシャツの襟ぐりがビロビロに伸びたり、瞬く間に服が傷んだ。これでは服がいくらあっても足りない!

で、どうしたか。かろうじてサイズがあるアウトドア・メーカーのウエアで代替した。その手のモノは作りがタフなので重宝した。またあるときは、ジブンサイズの革のジャケットをオーダーメイドした。かなり値が張ったうえ、なんと1年近く待たされた。250kg以上ある愛車の取り回しも大変だったが、それ以上に納得するウエアを探すのに骨を折ったかもしれない。ちなみにいま、私がコンセプトメイクさせていただいているCYCLOUNDというバイクウエア・ブランド。「ジブンが着られる服がないなら作っちゃえ」という安直かつ切実なる意図のもと、数年前に立ち上げた。そのくらい女性用のバイクウエアは乏しかったというわけだ。

何年か前、カブをベースに作られたおしゃれな原付バイクが流行ったことがあった。リトルカブとかズーマーとかだったと思う。渋谷や原宿ではアパレル関係の会社に勤めるOLさんなど、おのおののファッションに身を包んだ女性たちが颯爽と跨る姿をよく見かけた。それらの原付バイクは、踏みこんでギアチェンジするタイプの3速ロータリー・ミッションだったり、ATだったりなので靴を傷めない。どんなスタイルでも自由にバイクを楽しむことができる。私が思うに、女性がバイクに乗ることの垣根が取り去られたのは、たぶんこのときからではないだろうか。

そういう流行があり、女性を取り巻くバイク環境がどんどん明るい方へ変わっていった気がする。最近ではリッター・バイクに跨る男勝りな女性も、旅先や街でふつうに見かけるようになった。同時にニーズが高まるのは、やはり女性向けのウエアだ。そもそもここ数年は男女分け隔てなく着られる、いわゆるユニセックスの服が流行っている。キュートに履くゆるめのデニム、ざっくりしたTeeシャツ、革のジャケット、ちょっと大きめのスニーカーなど、“ボーイズ”と呼ばれるそのジャンルは、私も好きでよく身につけている。そういったファッションをさらりと着こなすバイク乗りの女性がいると、もはやバイクは男性のものではない。時代は変わったものだねぇと、なんだかしみじみしてしまう。“ウナギと梅干し”、はたまた“天ぷらとスイカ”みたいな、食べ合わせが悪い時代は終わった。“バイクと女性”は、いまや相性のいいごく“ふつう”のすてきな組み合わせである。

着る服が整ったところで、さぁ出かけようか。ドンドン楽しもう。次回のエッセイは“バイクがあれば女性のライフスタイルはもっと楽しくなる”……について書こうと思います。乞うご期待。

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